山口敏郎 瀬戸内市立美術館のイメージ

- 山口敏郎展を3倍楽しむ方法[瀬戸内市立美術館] -

瀬戸内市立美術館

 スペイン(マドリード)を拠点に活躍されている芸術家 山口敏郎氏の展覧会[瀬戸内市立美術館]の楽しみ方について、「山口敏郎展を3倍楽しむ方法」と題して取材記事と共に紹介します。

 まずは、以下の3作品をご覧ください。

宙の種・満天星・影の浮遊

山口敏郎:宙の種・満天星・影の浮遊

 上の作品は山口氏が会場エントランスに並べた作品「宙(そら)の種・満天星・影の浮遊」を、それぞれ別々に撮影し並べ合成処理を施したものですが、こうして3つの作品を並べる事で、山口氏の作品の魅力が非常に分かり易くなります。

宙(そら)の種、拡大写真

 実は、この3つの作品が描かれたのは1990年代半ばなのですが、この頃の山口氏の作品の多くは「三層構造」を追求している作品が多く、「上・中・下」と言う風に3つの階層に分かれた作品や、「表層・中層・下層」と言う多層構造を持つものが有ります。

 上の3作品は「表層・中層・下層」と言う多段構造を持つ後者で、表層には「大地をイメージさせる淡い茶」、中層には「黒」、そして下層には「絵画本体の色」を持ち、それを古釘で「表層・中層」を削り出す事で描かれています。

 こうして3作品を並べて見て頂けると、同じ三層構造の作品でも削り出しの違いで「作品ごとに大きくテイストが違ったもの」になっている事にお気付きになられるかと思いますが、これらの作品に対して山口氏は以下のように語っています。

 「宇宙から切り離されて閉じ込められた自己に、宇宙を映しだし、その感覚を甦らせてくれる鏡」、そのようなものとして私の絵は今、私の前にある。

山口敏郎

 この山口氏を知る「切っ掛け」となる3作品に心を奪われたなら、そこは既に山口ワールドの入口です。

 ※ 実際には3つ大きな作品が個々に展示されており、それぞれがそれぞれに圧倒的な迫力と存在感を持ち、瀬戸内市立美術館を訪れる方々を魅了しているのですが、その迫力や魅力をホームページ上の写真では、どうしても再現する事は不可能であったため、上のように写真画像に過去を施しました。

- 主役は自分の目と心 -

 山口敏郎氏のアートに興味を持ち始めたならば、次の作品をじっくりと見て頂きましょう。

山口敏郎:地の皮

 もしかして、あなたは「緑色に吸い寄せられて、自然と緑色を追うようにして探しましたか?」、それとも「赤色に吸い込まれるようにして、次の赤色を追いかけましたか?」、もしくは「気に入った1つをただ見つけ続けましたか?」、はたまた、「全く違った見方をしましたか?」。

 山口氏の作品は、その観賞ポイントの全てを、鑑賞者1人1人の個性と判断に完全に委ねています。

地の皮拡大写真

 つまりは、作品の「楽しみ方・見方・評価の仕方・感じ方」など、その全てを見る者の判断に委ねる事で、見る者に自由な発想を持たせ、それは作品は常に無常感を持たせる事へと繋がり、そこに朽ちて行く時の流れの美学を反映させています。

 山口氏の作品は、「正解は常に見る側に有り、見る側がその回答を求める過程を楽しむ事」によって、その深い視点に飲みこまれていきます。

 また、どこか作品が優しやを生み出しているのは、壁一面に飾られた絵一枚一枚が、数年間に渡り丁寧に上塗りに上塗りを重ねた上で生まれた作品で有り、それは大地の地層や大木の年輪のようにして刻まれているためです。

 そこに、「優しさや人の思いを感じる・・」その“感情”や“思い”もまた、個人の判断に全ての正解は委ねられています。

- 「壊れていく・・」それも1つの歴史 -

山口敏郎氏と子供

 先に紹介したように山口氏の作品は、「長い歳月を掛けて描かれている作品」が数多く有り、その歴史の年輪のようなものが「作品に独特の味を与えている」と言っても過言では有りません。

 しかし、そんな山口氏の貴重な作品は、「他の美術館や展示会では決して考えられない事」が許されているのですが、それは一体何だと思いますか?

 ちょっと想像も付かない答えかも知れませんね?

 答えは、全ての山口氏の作品に対して「触ってもOK」と言う許可がおりているのです。

 その旨を山口氏本人が「私の作品は気になったなら触って貰っても良いよ!!」と、さらりと言い放った事に驚きを隠せなかったのは言うまでも有りませんが、実は、その「触っても良い」と言うところに山口氏の芸術が有るのです。

 「例えば、子供が作品を触って壊れてしまったとしましょう。その行動により芸術が無常であり、時が作品を朽ち果てて行く様を見せ、作品が溶けて行く事を証明し、その壊れた部分が歴史となり作品に刻まれていく事になる。」

 つまり、山口氏の作品は、山口氏自身が完成させている物では無く、“時”と“第三者”と“それを見る人の感性”の全てが、圧倒的な偶発力により重なり合って完成されており、現時点での完成は将来においての完成では無く、数日後には、また別の作品となって生まれているのです。

- 薮田翔一 音源提供作品「発光(はっこう)」 -

薮田翔一 音源提供作品「発光(はっこう)」

 「瀬戸内市立美術館:山口敏郎展」において、来場者が最後に目にする作品となるのが、薮田翔一が音源提供をしている「はっこう」です。

 非常に暗い通路の中を、歩みを進める度に大きくなっていく「不思議な音色」に案内されるかのように辿っていくと、突然目の前には色とりどりの輝きを放つ花畑が現れます。

 「女性的な要素を組み込まれた」発光(はっこう)は、400以上の花たちが静かにその色を変化させ、「生まれては変わり、そして消えていく」無常を表し、そこに訪れた者は「生命の誕生の瞬間」に立ち会う事になります。

 薮田翔一が拘り抜いた「10種類にも及ぶ音源」を用いている「はっこう(音源作品名)」は、その全ての音が独立して管理されており、重低音が体全体へと振動し、生命誕生への緊張感を生む中で、「無限音階(音の切れ間が無く無限に上昇していくように聞こえる音)」が組み込まれる事で、人は一種のトリップ状態(幻覚状態)へと誘い込まれます。

 ふとした瞬間、そこが「水の中」、「母親の胎内の中」だと錯覚してしまったならば、それはもう「2人のアーティストの世界」へと誘いこまれています。

- 山口敏郎展を3倍楽しむ方法まとめ -

山口敏郎・薮田翔一

 瀬戸内市立美術館で開催されている「山口敏郎展」では、全ての作品を「自分で評価する」事を意識して、「今、自分の目が何を追いかけているのか?」「今、自分は何を感じているのか?」、または、「作品に対して自分は何をしたいのか?」「どの角度から見てみたいのか?」と言った全ての五感を開いてみることで、楽しみ方は無限に広がります。

 また、美術館は建物4階が入口となっており、入り口からは瀬戸内海が一望できるので、帰りの際には、是非、その景色もお楽しみ頂ければと思います。

山口敏郎展

 2014年5月3日(土)~5月25日(日)

 瀬戸内市立美術館
 (岡山県瀬戸内市牛窓町牛窓4911)

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