Beginners 現代音楽入門 Shoichi's Lab

- 曲を作る前に準備する事 -

曲を作る前に準備する事!イメージ

 「どのようにして作曲するのですか?」

 このような作曲に関する質問は、私だけではなく、他の多くの作曲家の方々が講演会やインタビュー等で頻繁にお受けする質問です。

 しかしながら、作曲の話をするには、どうしても「作曲活動に入るまでの下準備の話」を抜きにして語る事は難しく、さらに“作曲への準備”、それ自体が“楽曲の存在”を決定付けてしまったり、“楽曲を完成”させてしまったりと言う事も珍しくありません。

 そこでここでは、「曲を作る前に準備する事」と題しまして、クラシック音楽作曲家や、現代音楽作曲家を始め、「作曲家が作曲活動に入るまでに何をしているのか?」と言う話を基に“作曲に向けての準備の話”について紹介してみたいと思います。

2種類の作曲家

 「作曲の準備」と一括りに言っても、“音楽のジャンル”や“作曲家の好み”、それに“使用楽器の違い”など、世界中には様々なタイプの作曲家が、それぞれ全く異なった「作曲の準備」をして作曲に臨んでいます。

 そのため、「世界中の作曲家が作曲に向けて準備している物」と言う括りでお話をしてしまうと、長い音楽史の中では数え切れないほどの作曲家がいる訳ですから、その1人1人に焦点を当ててしまう事によって「一体いくつの“例”を提示すれば良い」のか想像すらできません。

 そこでまずは、作曲家を大きく“2種類のタイプ”へと分類した上で解説をしてみたいと思います。

作曲家のタイプ1

 “1つ目のタイプ”は、“音が天から聴こえてくるタイプ”で、典型的な例として「専門的な音楽教育を受けていなかったり、音楽に関する専門的な知識を持っていなかったりするにも関わらず、“傑作”と呼ばれる作品を作り上げてしまうような作曲家」が挙げられます。

 このような、所謂、“天才作曲家”と呼ばれるような方々の場合、「作曲に向けての準備」を行うよりも先に「勝手に楽曲の方から頭に降りてきてしまう」ため、「作曲準備を全く必要としないままに“聴こえてくる音楽”を楽譜へと書き出すだけ」と言う作曲スタイルになります。

 「曲を作る前に準備する事」について話をしているのに、“天才”が相手では深い話ができませんね(笑)。

作曲家のタイプ2

 続いて“2つ目のタイプ”は「試行錯誤を繰り返して作曲をするタイプ」で、私も“タイプ2”の作曲家の1人です。

 “タイプ2”は“タイプ1”とは違い、作曲に向かう際、“綿密な下準備”をしっかりと行った上で、楽曲に対して検証に検証を重ねて少しずつ積み上げていきます。

 “タイプ1”が「天才型の作曲家」とするならば、“タイプ2”は「努力型の作曲家」と言っても良いかも知れませんね。

 前置きが非常に長くなってしまいましたが、「努力型」とも呼べる“タイプ2”の作曲家が「現代音楽の器楽曲(ピアノソロ曲)を作曲する場合」を例にして、「一体どのような作曲の準備をするのか?」について掘り下げてみたいと思います。

現代音楽(ピアノ曲)の作曲準備

 “タイプ2の作曲家”が「現代音楽のピアノソロ曲」を作曲する場合、準備するものとして最初に必要なものは“ピアノ曲に対する深い知識”です。

 理想を言うならば、「過去に作曲されたピアノ曲の全て」を知った上で、さらにそれは「どういったタイプの曲」で、「どのような奏法が使用されたか?」など、一曲一曲を徹底的に分析した上で解析しておく必要があります。

 これは、現代音楽という音楽のジャンル上、「クラシック音楽の歴史を踏まえた上で、新たな“音楽”・“奏法”・“価値”を持った曲を作らなければいけない」といった“使命”が作曲家に付きまとってくるためです。

 そのため、現代音楽作曲家は「ピアノソロ曲」を作曲するに当り、膨大な量のピアノソロ曲を徹底的に「調査・研究」する事が「作曲に向けての準備」の第一歩となります。

現代音楽(ピアノ曲)の調査・研究

 現代音楽作曲家は、「作曲の準備」として楽曲の調査・研究する過程において、先ほども紹介したように「新たな“音楽”・“奏法”・“価値”」を見出す必要があるため、常に「これは新しい音楽として成り立つのか?」や「何かまだ使用されていない奏法は無いか?」または、「この楽曲に価値は見出せるのか?」と言った膨大な情報量と取捨選択の葛藤に入ります。

 それは、既に数え切れないほどの「ピアノソロ曲」が世界には存在した上で、“名曲”と呼ばれる楽曲も数多く有り、それに加えてピアノ曲は“クラシックの大作曲家達”が、長年に渡り“あらゆる奏法”を研究しつくしてきたためです。

 特に、現在の現代音楽という音楽ジャンルにおいて言うと、「ピアノソロ曲を作曲する事」は“最も困難”と言っても過言では無い状況で、「既に開拓しつくされ大都会となった場所で、1人“ダイアモンド”を掘り当てようとしている」ような感覚に陥ることもあります。

 そんな状況下においても、もちろん生み出すものは音楽ですから、“深さ”・“豊かさ”と言う面においても“過去の偉大な名曲”に対抗しうる事ができるものを模索しなければいけませんし、できなければ楽曲は生まれません。

 こうした苦悩を乗り越え、何か作曲の材料となるものを見つけ、そこに“深さ”や“豊かさ”織り込む事ができる事を確信できたならば、「作曲の準備段階」として、ようやく“五合目”に辿り付く事になります。

現代音楽(ピアノ曲)の構成

 楽曲に対して研究し作曲への糸口を見つける事ができたら、「作曲の準備後半戦」として、続いては「バラバラ散らばっている作曲材料」を頭の中で組み立てていく作業に入っていきます。

 作曲は“構成が命”とも言われており、作曲段階に至る前に「大まかな道筋を模索した上で“組み立て”」を行っていなければ、そこに音楽的な“深み”や“味”を加えていく事ができません。

 作曲が英語で“Composition(構成する、組み立てる)”と言った単語が使われる由縁はそこに有ります。

 構成段階においてのイメージとしては、全く形や大きさの違った積み木を1つ1つ積み上げた上で、頭の中で設計図を描き、さらにその造形物が「“斬新”であり“雄大さ”を持ち、そして“人の心を打つ”のか?」を問う事になります。

 もちろん、この段階において「設計図が美しく無い」と判断した場合には、また積み上げた材料をバラバラに壊し、また始めから構成を考え直す事になります。

 そして、試行錯誤の末に構成段階が終わり、全体像が“ハッキリ”と目の前に見えたならば、ようやく作曲の準備は終わることになります。

作曲の準備 - あとがき

 今回の例は、試行錯誤をして作曲をするタイプの作曲者の中でも、あくまで「現代音楽作曲家の作曲の準備」に関してのお話をメインテーマにして紹介しましたが、同じ現代音楽を作曲されている方でも、もちろん、全く異なった準備をした上で作曲に臨む方は沢山いらっしゃいます。

 また、現代音楽でも“オペラ”・“映画”・“舞台”などと言った“演奏形態”などの違いや、“歌詞”であったり、その時々の“役者の動き”が優先される曲作りになる事もしばしば有り、その場合においては今回紹介した「作曲の準備」とは全く違ったアプローチを持って作曲に向けて準備をしていくことになります。

 最後に、音楽と言う業界に限らず「世に貢献する人」と言うのは、そのほとんどの場合において、先人の仕事を徹底研究し、その中から何等かのアイデアを紡ぎ出し“形”として残していらっしゃいます。

 「“閃き”が全て」のように思われる事の多い作曲家の世界においても、“作曲前に本当に準備しておきたいもの”と言うのは、「今の自分は目の前の壁に本気でぶつかっているのか?」と自分自身に対して常に問いかけ、反省や修正を行う事に対しても“決して最後まで諦めない気持ち”なのかも知れません。

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ANIMA

ANIMA イメージ

ANIMA 概要

 「ANIMA」はイタリア語で『魂』、「ANIMATO」は音楽用語で『生き生きと』を意味し、ウィーンコンチェルトハウス100周年作曲賞最優秀作品賞を受賞した楽曲です。

 バラバラに飛散した「魂」が1点に集中していく中で「音の方向性」を与え、その結果、曲全体に一定の方向性が生まれ、聞き手にとって有りがちな「現代音楽は理解が難しい」と言う課題にも挑戦した作品でもあります。

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